隣で眠る天使みたいな寝顔にキスをしたのは、

嬉しそうに笑う君の手をそっと握ったのは、

震える背中を強く抱きしめたのは、


全部全部、愛だったはずなのに。




 *******



「さむそう…」


ぼそりと何気なく呟くと、隣にいたシウォンに顰め面をされた。


「ドンへ、お前、俺の話聞いてたか?」

「ん?あ、ごめん。聞いてなかった。」

「…はぁ…」



へらへらと笑って本音を言うと、シウォンは相変わらずのオーバーリアクションでため息を漏らす。
そんな反応をされてもまだ、俺の意識はシウォンの話にはいかないようで、
やっぱり、視線は窓の外だ。


十一月の寒空の下、半袖短パンの体操着で校庭を走り回るヒョクチェは、
どうやら100mの自己ベストタイムを更新したらしい。
嬉しそうに友達と抱き合いながら肌を擦り合わせる姿は何とも可愛いが、
どうも…気に食わない。



……寒いなら、着ればいいのに…。



「ドンへーおーいドンへー。」

「ん?」

「お前、また聞いてなかっただろ。」

「あ、うん。ごめん。」

「…お前、いっつもヒョクチェのこと見すぎ。」

「いっつも見てるよ、好きなんだもん。」



胸を張ってそう言い切ると、俺はまた窓から校庭を見た。
白い肌を曝け出して、休憩中なのか、呑気に地べたに座ってくつろぐヒョクチェを、俺は何とも言えない目で見つめる。



「ヒョクチェも大変だな、こんな恋人もって。」


呆れながら首を竦めるシウォンににかっと笑いかけると、
やれやれ、と小さく呟いたシウォンが前を向きなおす。

いつも授業を真面目に受けていないドンへにとっては、
真面目なシウォンが授業中に話しかけてくれること自体、暇つぶしになっていいのだが、
今はやっぱり、一人で窓の外の可愛い恋人を堪能していたい。



「あ、お腹…」


足を延ばしてくつろぐヒョクチェに、仲のいい友達であろう生徒が勢いよく飛びつく。
その勢いでゴロンと横に倒れたヒョクチェの半袖がふわりと浮いて、その白くて滑らかな白い腹が露わになる。


ダメダメ!絶対見ちゃダメ!!!
ヒョクチェのお腹は俺だけのものなの!ていうかホントはその綺麗な足とか細い腕とか全部俺のだから
見ちゃダメなんだけど…



「ドンへ、顔。」

「へっ?」



またいつもみたいに暴走加減でヒョクチェの周りにいる奴らに睨みを利かせていると、シウォンが小声で俺にいやーな顔して呟いた。

そんなに顔に出てたかな…
でもだって、ヒョクチェの全部は俺のなんだもん。

抱きしめると一気に上がる体温も、あどけなさが残った顔も、幸せそうな甘い笑顔も、いやらしくて艶めかしい姿も…



「お前…顔いい加減にしろよ…」

「え…」


がっつり後ろを振り返ったシウォンが眉を寄せてそう言った。
考えていたことがことだけに、変な顔をしていたらいやだと頬を触ってみると、
あからさまにシウォンがため息をつく。こいつのため息、何回目だろう。



「せめてちゃんと授業受けてるフリくらいしろ。授業中にそんな顔する奴はいない。」

「は、はい…」


しぶしぶと頷くと、黒板に向き直ったシウォンの背中を見つめる。
フリとはいえ、本当に黒板を見つめる気にはならないし。




ちらりと時計を見ると、授業終了まであと10分。

10分ヒョクチェを見ないでいるなんて耐えられるかな、なんてことを考えながら、俺はふふっと笑った。









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