靴箱でいそいそと靴を履き替えていると、
校門のところでぼうっと佇んでいるヒョクチェが見えた。
それだけでパッと明るくなる自分の顔。
多分、シウォンはまたため息をつくんだろう。
「ひょ…」
ヒョクチェ!と駆け寄って抱きつきたい。
クラスの友達にされたより強く抱きしめて、
それから、今日、半袖半ズボンでいたことにけちをつけて、困った顔をするヒョクチェに、そっとキスしたい。
そう思って、声を出したのに。
「あ、マジで!?俺なんて今日やっとそのタイムだぞ…」
「はは!だせー!!俺はこないだまた自己ベスト更新したぜ?」
「えー!!お前足速すぎ!」
昇降口を出て駆け寄る途中、俺に気づかないヒョクチェが、
背の高い男と、楽しげに会話をしている。
誰だろうと思って近づこうと思うのに、どうしてだろう。足が動かない。
気づいて欲しくて名前を呼ぼうと思うのに、何でだろう。声が出ない。
こわい、こわい。
ヒョクチェが離れていきそうでこわい。
自分の独占力が、こわい。
「俺も今帰るときだったんだよな…あ!ドンへ!!」
ニコニコと話し続けていたヒョクチェが、ふいに此方を向いた。
嬉しそうに俺の名前を呼んで手を振ったのは、会話が楽しかったからだろうか。
「なんだよ、いたなら呼んでくれればよかったのに…」
「う、ん…ごめん…」
「ま、別にいいけどさ。」
こっちの駆け寄ってきたヒョクチェが、ポンと俺の頭を撫でる。
そうされるともう、さっきまで抱いていた黒い感情なんて一気に消え去って、
心がふわふわと躍りだす。
「またな!」って笑って喋っていた男に手を振るヒョクチェに、「かえろ」と呟いてその手を握ると、少し照れたように頬を赤くして微笑んだ。
嬉しい。すっごく可愛くて、抱きしめたい。
でも、手から伝わる温もりで十分な気がして、俺は心の中で微笑んで、ゆっくりと歩き出した。
*******
「でさ、それで今日やっと自己ベストでて…」
嬉々と話すヒョクチェに、俺も同じようなニコニコとした笑顔で「知ってる」と答えると、
ヒョクチェは目を丸くして俺を見た。
「は…?何で?」
「ヒョクチェの体育の授業、教室から見てた。」
「え、授業は?」
「ん?聞いてないよ?」
「…はぁ…」
あれ、ため息つかれた。
なんか俺、人にため息つかれやすい人間みたいだ。しかも、おんなじ様な理由で。
「ドンへって、ホント俺のこと好きだな」
呆れたように笑うヒョクチェに、シウォンのときと同じように胸を張って頷くと、
今度はヒョクチェが何故か悲しい顔をする。
瞳がぐらぐらと揺れて、今にも泣き出しそうなその顔に、俺は思わず問いかけた。
「ヒョクチェ?どうしたの?」
「や、何でも…」
「……ヒョクチェ?」
急に立ち止まったヒョクチェは、俯いたまま顔を上げない。
どうしたんだろうと思って顔を覗き込んで頬に触れようとすると、
その直前で腕をヒョクチェに掴まれてしまう。
「ひょく…」
「ドンへ、」
「ん…?」
「ごめん、俺…」
ふるふると腕を掴んだ手が震えだして、
喉の奥から無理やり搾り出したような声をヒョクチェが出す。
ドクリと心臓が脈を打って、背中を鳥肌が走る。
どうしよう。嫌な予感がする。
「俺、もう別れたい…」
涙ぐんだその声に、ゆるゆると掴まれた腕を下ろしたのがいけなかったんだろうか。
そのまま強く、離れていかないように、抱きしめれば良かったんだろうか。
それをしなかった俺は、恐がりで、弱虫なんだ。
校門のところでぼうっと佇んでいるヒョクチェが見えた。
それだけでパッと明るくなる自分の顔。
多分、シウォンはまたため息をつくんだろう。
「ひょ…」
ヒョクチェ!と駆け寄って抱きつきたい。
クラスの友達にされたより強く抱きしめて、
それから、今日、半袖半ズボンでいたことにけちをつけて、困った顔をするヒョクチェに、そっとキスしたい。
そう思って、声を出したのに。
「あ、マジで!?俺なんて今日やっとそのタイムだぞ…」
「はは!だせー!!俺はこないだまた自己ベスト更新したぜ?」
「えー!!お前足速すぎ!」
昇降口を出て駆け寄る途中、俺に気づかないヒョクチェが、
背の高い男と、楽しげに会話をしている。
誰だろうと思って近づこうと思うのに、どうしてだろう。足が動かない。
気づいて欲しくて名前を呼ぼうと思うのに、何でだろう。声が出ない。
こわい、こわい。
ヒョクチェが離れていきそうでこわい。
自分の独占力が、こわい。
「俺も今帰るときだったんだよな…あ!ドンへ!!」
ニコニコと話し続けていたヒョクチェが、ふいに此方を向いた。
嬉しそうに俺の名前を呼んで手を振ったのは、会話が楽しかったからだろうか。
「なんだよ、いたなら呼んでくれればよかったのに…」
「う、ん…ごめん…」
「ま、別にいいけどさ。」
こっちの駆け寄ってきたヒョクチェが、ポンと俺の頭を撫でる。
そうされるともう、さっきまで抱いていた黒い感情なんて一気に消え去って、
心がふわふわと躍りだす。
「またな!」って笑って喋っていた男に手を振るヒョクチェに、「かえろ」と呟いてその手を握ると、少し照れたように頬を赤くして微笑んだ。
嬉しい。すっごく可愛くて、抱きしめたい。
でも、手から伝わる温もりで十分な気がして、俺は心の中で微笑んで、ゆっくりと歩き出した。
*******
「でさ、それで今日やっと自己ベストでて…」
嬉々と話すヒョクチェに、俺も同じようなニコニコとした笑顔で「知ってる」と答えると、
ヒョクチェは目を丸くして俺を見た。
「は…?何で?」
「ヒョクチェの体育の授業、教室から見てた。」
「え、授業は?」
「ん?聞いてないよ?」
「…はぁ…」
あれ、ため息つかれた。
なんか俺、人にため息つかれやすい人間みたいだ。しかも、おんなじ様な理由で。
「ドンへって、ホント俺のこと好きだな」
呆れたように笑うヒョクチェに、シウォンのときと同じように胸を張って頷くと、
今度はヒョクチェが何故か悲しい顔をする。
瞳がぐらぐらと揺れて、今にも泣き出しそうなその顔に、俺は思わず問いかけた。
「ヒョクチェ?どうしたの?」
「や、何でも…」
「……ヒョクチェ?」
急に立ち止まったヒョクチェは、俯いたまま顔を上げない。
どうしたんだろうと思って顔を覗き込んで頬に触れようとすると、
その直前で腕をヒョクチェに掴まれてしまう。
「ひょく…」
「ドンへ、」
「ん…?」
「ごめん、俺…」
ふるふると腕を掴んだ手が震えだして、
喉の奥から無理やり搾り出したような声をヒョクチェが出す。
ドクリと心臓が脈を打って、背中を鳥肌が走る。
どうしよう。嫌な予感がする。
「俺、もう別れたい…」
涙ぐんだその声に、ゆるゆると掴まれた腕を下ろしたのがいけなかったんだろうか。
そのまま強く、離れていかないように、抱きしめれば良かったんだろうか。
それをしなかった俺は、恐がりで、弱虫なんだ。
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