Side H
大好きだったドンへに告白された。
「好きだ、愛してる」、と。
俺だって好きだ。ずっと一緒にいた親友だし、俺のことは、ドンへが一番分かってくれたし。
でも、「愛してる」、は―――。
「…ヒョク、チェ…?」
ごめん、ごめん。もう、それしか言えなくて。
傷つけたくなかった。大切で、大好きなドンへを。
だから、嘘をついた。
「俺も、愛してる」、と。
この気持ちは愛なんかじゃない。ずっと分かっていたのに。
その時はただ、目の前で泣きそうになりながら俺を抱きしめるドンへが愛しくて、守りたくて。
好きと言われれば嬉しかった。手を握られれば少し恥ずかしくて、くすぐったくて。
でもそれは愛じゃない。俺はドンへみたいに、
何処にいても、何をしていても、ドンへのことを考えたりなんかしない。
もう、充分分かったから。ドンへがどれだけ、俺を想ってくれていたのか。
嘘をついてこのまま一緒にいるよりは、今、これ以上ドンへが俺のことを好きにならないうちに、離れた方がいいに決まってる。
「ヒョク、チェ…なんで…」
「…俺、もう一緒にはいられない…」
「…ッヒョクっ…」
「ご、めん…」
ごめん、ごめん、ドンへ。
俺なんかを選ばないで。俺ってば酷い奴なんだ。
好きだって嘘つくし、自分で耐えきれなくなって別れるし。
ドンへはカッコよくて、優しくて、気が利くし、面白いし。
俺なんかじゃなくて、もっと可愛くて、ふわふわしてる女の子が相応しい。
「ごめんな、ドンへ」
信じられない、というような瞳をしているドンへに背を向けて、
俺は歩き出す。
どうして涙が出ないんだろう。俺は本当に、最低な奴だったんだ。
いつか、またいつか、笑ってドンへに会えるときになったら、ちゃんと今の気持ちを伝えよう。
今の俺は、恐がりで、弱虫で、どうしようもないから。
どうせもうすぐ受験だし、ドンへに会うことはなくなる。
そうすれば時間が傷を癒してくれるし、そうしたら、ドンへだって――
『ヒョクチェー』
『んー』
『俺、絶対ヒョクチェのこと泣かせないからね』
『ん、ありがと』
『で、ヒョクチェは?』
『は?』
『俺のこと、泣かせない?』
約束通り、だった。ドンへは俺を泣かせなかった。
でも、俺は結局約束を破ることになる。きっとドンへを泣かせる。
俺は、最低な人間でいい。
*******
「ヒョクチェヒョン、」
ポン、と頭を撫でられて、俺は思わず眉を寄せた。
毎日のように子ども扱いするなと言っているのに、こいつは一向に直しそうにない。
「お前…俺の方が年上なんだぞ。」
「え、知ってますけど。」
「な…じゃあ子ども扱い直せよ!俺が嫌!!」
「…だって、ヒョクチェヒョンどうみたって年下なんですもん」
「はあ!?」
ガタンッと大袈裟な音を立てて椅子から立ち上がると、食堂にいた全員が俺を視線で刺す。
シンと静まり返った空気さえも自分を圧迫しているようで、俺は仕方がなくゆるゆると腰を下ろした。
「……最低、お前」
小声で威嚇しながら睨みつけてやると、目の前の後輩がニヤリと笑った。
俺はどうする術もなく深いため息を一つついて、食べかけのハンバーグにかぶりつく。
「大学四年にまでなってハンバーグですか」
「…バカにしてんのか?」
「いえ、子供だなぁって。」
「バカにしてんじゃねぇか!!」
ハンバーグを咥えたまま声を荒げる俺に、「まあまあ」、なんて年上気取った態度をとるそいつに、
俺はいい加減嫌気がさす。
こいつは二年の中でも超有望株だか何だか知らないけど、
それなりに注目を集めてる人間だ。
そんな奴が、どうして俺みたいな平凡人間になつくのかが分からない。
「さ、ヒョクチェヒョン、早く食べちゃってください。」
「は?何で?」
「だって、今日俺四年と一緒に講義ですもん。」
「どうして!?」
「え、頭がいいから?」
「………キュヒョナ、お前もう黙れ。」
聞いてきたのはそっちじゃないですか、なんて不貞腐れる後輩をよそに、俺はハンバーグを喉に流し込む。
今日はやけにソースがしょっぱい。俺が大好きな、食堂のおばちゃんのソースにしては珍しい。
「誰が作ったんだろ…」
ぼそりと呟くと、キュヒョンに目で訴えられる。
早くしろってことだろうか。俺は仕方がなく、大口を開けてハンバーグを口にしまった。
その時。
「あーーーー!!!!焦げたぁーーー!!!!!!」
耳を劈くような叫び声が厨房の方から上がって、
俺もキュヒョンもそろって顔を顰める。
キュヒョンは俺がもたもたしてることからして苛立っているようで、ちらりと厨房を盗み見て、小さく舌打ちをした。
「ったく…ほら、行きますよヒョクチェヒョン」
「あ、う、うん…」
素早く立ち上がったキュヒョンにつられるように、俺もトレーを持って立ち上がる。
そそくさと食堂を出ようとするキュヒョンに、「ちょっと待ってて!」と声を張り上げて、
俺はトレーを戻しに厨房の近くまで向かった。
「あ、れ…?」
トレーを置いた後、なんとなくさっきの叫び声が気になって、俺は少し厨房を覗いた。
でも厨房には誰もいなくて、残っているのは、
焦げたハンバーグが残っているフライパンと、
洗っていない食器の数々。
大方別のところで叱られてでもいるんだろうな、あれだけ豪快に叫んでたし。
「行くか…」
俺は一人で呟いて、のろのろとキュヒョンが待っている出口まで向かう。
なんとなく、少ししょっぱいハンバーグの味と、あの頃の自分たちが蘇った。
大好きだったドンへに告白された。
「好きだ、愛してる」、と。
俺だって好きだ。ずっと一緒にいた親友だし、俺のことは、ドンへが一番分かってくれたし。
でも、「愛してる」、は―――。
「…ヒョク、チェ…?」
ごめん、ごめん。もう、それしか言えなくて。
傷つけたくなかった。大切で、大好きなドンへを。
だから、嘘をついた。
「俺も、愛してる」、と。
この気持ちは愛なんかじゃない。ずっと分かっていたのに。
その時はただ、目の前で泣きそうになりながら俺を抱きしめるドンへが愛しくて、守りたくて。
好きと言われれば嬉しかった。手を握られれば少し恥ずかしくて、くすぐったくて。
でもそれは愛じゃない。俺はドンへみたいに、
何処にいても、何をしていても、ドンへのことを考えたりなんかしない。
もう、充分分かったから。ドンへがどれだけ、俺を想ってくれていたのか。
嘘をついてこのまま一緒にいるよりは、今、これ以上ドンへが俺のことを好きにならないうちに、離れた方がいいに決まってる。
「ヒョク、チェ…なんで…」
「…俺、もう一緒にはいられない…」
「…ッヒョクっ…」
「ご、めん…」
ごめん、ごめん、ドンへ。
俺なんかを選ばないで。俺ってば酷い奴なんだ。
好きだって嘘つくし、自分で耐えきれなくなって別れるし。
ドンへはカッコよくて、優しくて、気が利くし、面白いし。
俺なんかじゃなくて、もっと可愛くて、ふわふわしてる女の子が相応しい。
「ごめんな、ドンへ」
信じられない、というような瞳をしているドンへに背を向けて、
俺は歩き出す。
どうして涙が出ないんだろう。俺は本当に、最低な奴だったんだ。
いつか、またいつか、笑ってドンへに会えるときになったら、ちゃんと今の気持ちを伝えよう。
今の俺は、恐がりで、弱虫で、どうしようもないから。
どうせもうすぐ受験だし、ドンへに会うことはなくなる。
そうすれば時間が傷を癒してくれるし、そうしたら、ドンへだって――
『ヒョクチェー』
『んー』
『俺、絶対ヒョクチェのこと泣かせないからね』
『ん、ありがと』
『で、ヒョクチェは?』
『は?』
『俺のこと、泣かせない?』
約束通り、だった。ドンへは俺を泣かせなかった。
でも、俺は結局約束を破ることになる。きっとドンへを泣かせる。
俺は、最低な人間でいい。
*******
「ヒョクチェヒョン、」
ポン、と頭を撫でられて、俺は思わず眉を寄せた。
毎日のように子ども扱いするなと言っているのに、こいつは一向に直しそうにない。
「お前…俺の方が年上なんだぞ。」
「え、知ってますけど。」
「な…じゃあ子ども扱い直せよ!俺が嫌!!」
「…だって、ヒョクチェヒョンどうみたって年下なんですもん」
「はあ!?」
ガタンッと大袈裟な音を立てて椅子から立ち上がると、食堂にいた全員が俺を視線で刺す。
シンと静まり返った空気さえも自分を圧迫しているようで、俺は仕方がなくゆるゆると腰を下ろした。
「……最低、お前」
小声で威嚇しながら睨みつけてやると、目の前の後輩がニヤリと笑った。
俺はどうする術もなく深いため息を一つついて、食べかけのハンバーグにかぶりつく。
「大学四年にまでなってハンバーグですか」
「…バカにしてんのか?」
「いえ、子供だなぁって。」
「バカにしてんじゃねぇか!!」
ハンバーグを咥えたまま声を荒げる俺に、「まあまあ」、なんて年上気取った態度をとるそいつに、
俺はいい加減嫌気がさす。
こいつは二年の中でも超有望株だか何だか知らないけど、
それなりに注目を集めてる人間だ。
そんな奴が、どうして俺みたいな平凡人間になつくのかが分からない。
「さ、ヒョクチェヒョン、早く食べちゃってください。」
「は?何で?」
「だって、今日俺四年と一緒に講義ですもん。」
「どうして!?」
「え、頭がいいから?」
「………キュヒョナ、お前もう黙れ。」
聞いてきたのはそっちじゃないですか、なんて不貞腐れる後輩をよそに、俺はハンバーグを喉に流し込む。
今日はやけにソースがしょっぱい。俺が大好きな、食堂のおばちゃんのソースにしては珍しい。
「誰が作ったんだろ…」
ぼそりと呟くと、キュヒョンに目で訴えられる。
早くしろってことだろうか。俺は仕方がなく、大口を開けてハンバーグを口にしまった。
その時。
「あーーーー!!!!焦げたぁーーー!!!!!!」
耳を劈くような叫び声が厨房の方から上がって、
俺もキュヒョンもそろって顔を顰める。
キュヒョンは俺がもたもたしてることからして苛立っているようで、ちらりと厨房を盗み見て、小さく舌打ちをした。
「ったく…ほら、行きますよヒョクチェヒョン」
「あ、う、うん…」
素早く立ち上がったキュヒョンにつられるように、俺もトレーを持って立ち上がる。
そそくさと食堂を出ようとするキュヒョンに、「ちょっと待ってて!」と声を張り上げて、
俺はトレーを戻しに厨房の近くまで向かった。
「あ、れ…?」
トレーを置いた後、なんとなくさっきの叫び声が気になって、俺は少し厨房を覗いた。
でも厨房には誰もいなくて、残っているのは、
焦げたハンバーグが残っているフライパンと、
洗っていない食器の数々。
大方別のところで叱られてでもいるんだろうな、あれだけ豪快に叫んでたし。
「行くか…」
俺は一人で呟いて、のろのろとキュヒョンが待っている出口まで向かう。
なんとなく、少ししょっぱいハンバーグの味と、あの頃の自分たちが蘇った。
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